六尺褌２０年の記憶 １０年目 ’０４年

　

　朝からずっと雨。　強くなったり弱くなったり。　まるでもう梅雨にでも入ったような空模様の東京です。

　親父が逝ってしまったこの年、俺の意識は、普段の生活のそれも仕事のそれも大きく変わった。　自営で仕事をするようになって７年、事業はすこぶる順調で日々の努力を忘れがち、どうかするとサボりたい気持ちが頭をもたげ始めて　『これではイカン』　と思い始めたこの時期に親父を亡くして、それまでの　『家族を支えなきゃ』　という事実がなくなって、仕事に対する意欲は萎んでしまったんだ。　事業を辞める時期を窺うようになったんだな。

　そして、褌に対する意識も、両親がいなくなってしまったことで大きく変わった。　ゲイであることや褌を締めていることで、もしかしたら異端視されて家族が嫌な思いをするかもしれない、という不安を抱かなくてもよくなった。　世間を憚る気持ちを持っている必要がなくなって、俺の褌生活も変わっていくのがこの年だったんだ。

　六尺褌を完全に常用し始めた。　そして　”六雄會”　という褌の愛好家の会に登録をして、限られた仲間内ではあるけれど　”六尺を締めた姿”　を披露し始めたんだ。

　その会に参加するには氏名（本名）、住所、生年月日を登録する、という条件があるんだな。　自分を明らかにしなきゃならないという不安と、みんな明かしてるから信用できる、という信頼の間で少しの間、悩んだ憶えがある。

　デジタルカメラの登場が絶対的なインパクトになったね。　自分で撮った写真を他人の手を借りずに画像化できる。　これは画期的だったよ。

　俺をもう一歩踏み出させることを躊躇させていた重石がなくなって、画像を自由にアップする手段を手に入れて、俺の褌生活はこの年、明らかに変わった。

画像。　’０５年夏。

　

　インターネットでの情報のやり取りがあたりまえになって、同性婚云々が世間の話題に上るようになった昨今、たかだかこの１０年で、こんなにもゲイを取り巻く環境が変化するとは想像もしてなかったよ。